二晩続けて夜更かしをした後の人間山が、隣室の物音にはっと意識を取り戻したと想像してくだされ。それは、ケージの網の上をやわらかいものとかたいものがぐるぐると転げまわる気配だ。こういうときは頭より身体が先に反応する。気づくと人間山はねじさじのケージに腕を突っ込んで、取り組みあっている2羽にまったをかけていた。
(また発情シーズンがやってきて、何だかもやもやしたねじさじが正面からがっぷり四つに組んで暴れる朝が続いている。いろいろ間違っている彼らに、だけどそれを説明してやるすべを持たない人間山には、2羽のケージを分けるべきかどうかといういつもの宿題が待っている)
しばらくしゃがみこんで自分をしっかり取り戻すための時間が要る。寝不足でどごーんと胃が重く、朦朧とした頭が目先の状況から遊離して「二日酔いってこんな感じなのかしら」と考えてなぜだかちょっと喜ぶ(人間山は下戸だ)。正気に返ったさじが利発そうな顔でこちらを見下ろしているのと目があって、つい、「さじさんコーヒーを淹れてはもらえないでしょうか」と頼んでみる。
というわけで、やる気満々(たぶん)のさじさんを肩に乗せて、道具と手順の説明だ。
「まず豆を」 ごりごりごりごり
「ネルドリップってどう思います?」 ごりごりごりごり
「ビッグになって小銭貯金でいつかみるっこを」 ごりごりごりごり
やがて時計を見ることを思いついたころ、ごりごりに飽きたさじさんはケージにお帰りになってしまった。後にはとりあえず目が覚めた人間山とやや荒挽きのコーヒー豆が残る。さじさんありがとう。この先はヒトにまかせておいてもきっと大丈夫だ。
BGM:Good Morning, Good Morning (The Beatles)