トリたちは、朝でも晩でもヒトの気配にぴよぴよと反応する。鳴き声でのコミュニケーションはとても大切だと思うので、ヒトもときにはがっと目線をあわせて、またときには少し気もそぞろでよそ見をしながらも、必ず呼びかけには答えるように努めている。まあ、たいていトリ側の主張は「ヒトちゃんヒトちゃんヒートーちゃん、こっちこっちこっちこっち、こっち見てこっち来て」だの「出動準備万端万端!」だの「じゅじゅじゅー」だのとほとんど定型なので(意訳by人間山)、ヒトもわりといい加減に相槌を打つ。トリの呼び名をまじえながら、「ハイハイハイハイ」「そうかそうかそれはそれはまた」「ぢゅぢゅぢゅーさぢゅー」などとやっているのだった。
一方黙っているときでもトリどもはそれぞれ表情豊かなのだけれど、とりわけもの言いたげに見えるのはねじだ。ぼさぼさの梵天越しに、あるいは首をぐっとひねって背中の羽衣の隙間から、こちらをじっと見る目には豊かで詩情あふれるトリごころがにじみ出ているようだ(本当のところはむつかしいことはなあんにも考えていないらしいのだが)。ねじと対峙していると、ときどきヒトは自分ひとりではかなわないだいぶ深い対話をしているような気さえしてくる。
ねじ様よ、どうしてヒトは大事なことをすぐ忘れてしまうくせに、忘れてしまいたいことをずーっとずーっと手放せないのだろうかねと、最近の懸案について尋ねてみる。するとねじ様は「そもそも『大事』と『忘れてしまいたい』が逆なんじゃなあい」とこちらを見かえすのだった。